甑島の地層
下甑島の西海岸の断崖を船に乗って直近から見上げると、その迫力に圧倒される。鹿島断崖も瀬々野浦断崖も
100mから200mの断崖が連なり、変化に富んだ海岸線は見飽きることがない。
その断崖を構成しているのが、約8,000万年前の地層である。
中生代・白亜紀後期の姫(ひめの)浦(うら)層群で下甑島の海岸部分のほとんどを占めており、南から北にいくに従って次第に年代が新しくなり、上甑島は桑之浦などの西海岸の一部にあるだけで、ほとんどが約5,000万年前の新生代・古第三紀層となっている。
この甑島の白亜紀から古第三紀層にかけての地層が平成21年5月に「日本の地質百選」に選定された。県内では霧島、桜島、屋久島に次ぐ指定であった。
そんな折、平成20年、21年と立て続けに鹿島の地層から肉食恐竜の化石が発見され、平成23年には草食恐竜であるケラトプス類の化石も発見された。約8,000万年前の甑島は大陸と陸続きになっており、種々の恐竜が闊歩していたのである。
地層は、湖底や海底に積み重なった砂や泥が堆積してできる。地層の中には形が残っていなくても生物の痕跡がびっしりと詰まっている。歴史が刻まれている。そんな思いで地層と向き合うと愛おしくなる。離れて眺めるとその優美さに魅入られてしまう。
甑島の地層のほとんどは砂岩と泥岩でできており、鮮やかな層を形成している。
色の変化は層の中に含まれる鉄が影響しているらしい。レンガ色などの明るい色になるのは、鉄が酸素と結合して酸化鉄(赤鉄鉱)を含むためで、黒っぽくなるのは、酸素がないと鉄が硫黄と結びついて硫化鉄(黄鉄鉱)になるためとか。これらは併存することなく、どちらかに分かれてしまう。泥岩が黒い色になり、砂岩が明るい色になるのはこのためで、化石がよく発見される頁岩(けつがん)は泥岩のうち層状に割れる性質をもつものをいうらしい。
白亜紀の終わり、約6,500万年前には、恐竜をはじめ生物の約70%が絶滅した。メキシコのユカタン半島に衝突した直径約10kmの隕石がその原因だといわれる。甑島は、地球が大変動したこの事件を挟む白亜紀と古第三紀層の両方の地層を有している。世界中の学者が研究対象にしているKT(白亜紀と古第三紀層)境界層も甑島のどこかにあるのではないか、そんな思いで地層を眺める自分がいる。