甑島の片隅で生きる男達
時々、ふるさとの手打に帰ってくる一つ上の先輩が、自分にとっての砂浜はここしかないからと海岸の清掃を始めた。
また芸術家風の長髪にしており、仲間から髪を切れと諭される「白髪の男」もいつからか海岸の清掃をするようになった。堂々と善行ができる彼らの勇気は素晴らしいといつも思っている。
正月に漁師をしている友人から同級生が集まっているので来ないかという誘いがあった。行ってみると、白髪の男がいて、もう一人の同級生は既に酔って横になっていた。横になっている同級生は「写真家の男」で、ストレートに人間らしさを発揮するところが魅力の一つである。
また、近くに家族と離れて一人故郷で暮らす同級生がいる。賑やかに人と交わるのがあまり好きでなく、農作業とイカ釣りが得意な「静かなる男」である。
彼を誘おうと漁師の友人が電話しても、自分が電話しても携帯電話には出る事はなかった。「よし連れてくっど!」と、懐中電灯を借りて白髪の男と二人で、彼の家に乗り込んだ。家の灯りは消えていたが、酔いの勢いもあり、白髪の男は先陣を切ってずけずけと家に上がり、灯りをつけることも忘れて懐中電灯で探し回ったが彼は見つからない。
「留守なんだが」と自分が言っても、「いや、何かがおかしい」と白髪の男はあきらめようとしない。そこで電話をしてみることになった。するとこたつの中で電話が鳴り、笑いをこらえきれなくなった「静かなる男」は発見されることとなった。
三人で笑いながら漁師の家に向かった・・・
静かなる男は、甑島の最南端・釣掛崎灯台の駐車場の土手にカノコユリの球根を200個植えた。春になった今、若い芽がすくすくと伸びて、夏の盛りに花を咲かせる準備をしている。今度は「ここにソテツがあったら素晴らしいのだが」と、彼は漁師の友人に話をした。
漁師の友人は一生懸命ソテツを探し回った。ようやく3本見つけ出し、彼らは一緒になってそれを植えた。
「赤鼻(釣掛崎)がもっとよく見えればいいのに」と、彼の挑戦は次ぎに向かっている。
内川内の滝と海岸に、世界中から人々が訪れるようになると信じる「夢見る男」がいる。叔父達から「おまえは右向けと言われれば右を向いていた」と揶揄されていた男は、右向けと言われれば左を向くまでに成長した。
「夢見る男」は少しずつではあるが、内川内の海岸の清掃を始めた。海岸へ世界中から流れてくる漂着物は、豊かになった文明の裏返しで瓶、缶、ペットボトル、漁網、発砲スチロールなど、種々雑多である。竹や流木も半端な量ではなく海岸に山積みになっている。
「夢見る男」は世界中からの漂着物が、やがて世界中から訪れる笑顔に変わる事を知っている。そのきっかけになる一歩として彼は「ささやかな挑戦」を始めたのである。
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